アレキサンドリア図書館 |
歩き疲れて、椅子に座ってボーっとしていると、1人の男性が話しかけてきた。現地の人らしく立派なあご髭を蓄え、清潔感のあるポロシャツにジーンズ姿だ。
「隣に座っていい?」と礼儀正しい一言に、「もちろん」と返答した。わたしが日本人だと分かると、「ミギ」「ミギ」としきりに言う。何度も聞き返すうちに、彼の言っているのが「メイジ」だと分かった。「MIGI」と「MEIJI」を混同したのだろう。
「エンペラー・メイジは偉大だ」と言った後、今度は「エンペラー・ヒロヒト」「ヒロシマ」「ナガサキ」と知っている日本語を続けた。やっぱりここは図書館だけあって、好奇心旺盛な人が集っている。どうやら日本の近代史を学んだことのある人のようだ。
「アメリカは好きか?」。原爆投下の地を挙がった後、こんな質問が降ってきた。そこで思い出したのは、ガイドブック「地球の歩き方」に載っていた一文。「現地の人と政治について話すときは気をつけましょう。知らないうちに怒らせてしまうことがあります」——
直接的な回答を避けながらも、正直に思うところを伝えた。「原爆は決して許せない。けれどもアメリカというよりも、むしろ戦争という行為自体により強い怒りを覚える。戦争をするのは政府だが、苦しむのは一般人だ」
彼はわたしの言葉に納得した様子だったが、続いて持論を展開した。「自分のものを他人に奪われたらどうする? 見て見ぬ振りをするか? いや、そいつと戦って奪い返すだろう? オレたちは今、同じ状況にあるんだ。アメリカは、オレたちアラブから土地を奪ってイスラエルをつくった。オレたちは戦って、それを奪い返すんだ」
わたしは話の接ぎ穂を失い、無言でいるしかなかった。
「お前はいい奴だ。別にお前に戦えと言ってるわけじゃないよ」。彼はそう言うとポケットから1ポンド硬貨を取り出し、「友だちの証だ」と手渡して立ち去った。
どう見ても、彼は過激派とは縁のない一般市民だ。反米感情が、市民レベルに深く根差し、そしてひとつの国や地域だけではなく、アラブ社会全域に広がっていることを目の当たりにした瞬間だった。
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