2010年9月11日土曜日

異国で遭ったオヤジ狩り—アスワン

ナイル川から眺めた岩窟墳墓群
 エジプトの南端、スーダン国境近くの街アスワン。アブ・シンベル宮殿への足がかりとして、多くの旅人たちはここで一泊する。何千年も前からヌビア人という民族が住んできた。その顔立ちは「中東」より「アフリカ」の要素が強く、「遠くにやって来たぞ」という旅愁をかき立ててくれる。
 岩窟墳墓群は、古代エジプトやローマ時代の支配層の墓だ。小高い丘を利用して作られており、ナイル川対岸にある市街地からも、その偉容を眺められる。
 足を運ぼうと思ったのは、入場締め切り時刻近い午後5時だった。到着を急ごうと、現地の人が利用する乗り合いボートではなく、岸辺で声を掛けてきた人のボートを利用した。
 乗っているのは、わたしのほかに現地の乗組員2人。岸を勢い良く離れたボートは対岸に向かったが、岩窟墳墓群の方向からは微妙にずれている。「やばい」。悪い予感がわたしの中でくすぶり始め、直後にそれが当たってしまった。
 ボートは中州に停泊し、そこに乗組員の仲間たちが待っていたのだ。「25ドル」。男たちは何度も要求してきた。連れてきた乗組員らの方を見ると、顔に笑みを浮かべている。
 わたしは内心「25ドル程度だったら痛くない」と思いつつも、「要求をすぐに受け入れたら、次の要求が出てくるかもしれない」と心配し、「対岸に行くか、戻るかどっちかにせい」と突っぱね続けた。
 根負けしたのは、乗組員の側だった。そもそもボート運搬は家族で経営しているらしく、出発した岸では子どもや老人が彼を待っている。性根を据えて悪事を働けるガラではなかったのだ。
 乗組員は仲間に挨拶すると、再びボートを出発させた。今度こそは、対岸に向けて。
 旅先での孤立は、ときに命取りになる——

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