2010年9月14日火曜日

バス運転士の「さじ加減」—カイロ

バスの中から見たピラミッド
 有名なクフ王のピラミッドやスフィンクスは、カイロ・ギザ駅から20㌔弱。歩いて行くにはちょっと遠い。ガイドブックを開いてバス停への行き方を調べていると、地元の40代くらいの男性が声を掛けてきた。
 彼は、ハイアットだかの外資系ホテルで警備の責任者を務めているという。物腰が柔らかく、外国人に親近感を持っている様子だ。「ピラミッドに行きたいんだろ?」と言うと、停留所まで連れて行ってくれた。
 一緒にバスが到着するのを待ってくれたのは、ありがたかった。現地のバスは、行き先をアラビア文字で記している。数字までもがアラビア文字なので、乗るべきバスを見分けるのは至難の業なのだ。
 さらに彼が力になってくれたのは、バスが来て、いざ乗ろうとしたときだ。停留所にさしかかっているのに、バスはスピードを落とそうとしない。彼は、通り過ぎそうなバスに、「乗りたい」と意思表示した。それでもバスは減速しただけで、完全には止まらなかったけれど、彼に促されて僕はなんとか飛び乗ることができた。
 最後列の席に座って、ガラス越しに振り返ったが、彼はすでに雑踏の中に消えていた。
 それから人が乗ってくるのを見ていると、バスが人を乗せるときに減速はするけれど、完全には止まらないことが分かった。この「減速」というのがくせ者で、年を召した女性が乗るときにはほぼ停止状態に近いのだけれど、男のときには減速が十分じゃないときもある。バスに乗れるか、乗れないか。それは運転士のさじ加減ひとつなのだ。
 ひとりの中年男性が乗ろうとしたときは、いったんは手すりを握ったのだけれど、スピードが落ちなかったために体を車両に入れられなかった。憂いに満ちた表情の男が、バックガラス越しに小さくなっていった。

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