2011年8月19日金曜日

30㌢の距離で見たフェルメール

京都で開催中のフェルメール展に行ってきました。フェルメールとは、17世紀に活躍したオランダの画家。これまで名前を耳にすることはあっても、そのすごさまでは実感がありませんでした。「どれどれ、品定めでも——」なんていう軽い気持ちで会場に足を踏み入れましたが、同時代にオランダで描かれたほかの画家の作品も並んでいて、十分に楽しめました。

僕にとって絵画を見る機会が最も多いのは、海外旅行です。パリ、バチカン、ニューヨーク…。大都市には美術館があって、街歩きの行き先として欠かせないことが多いのです。でも、そういう場合は何かしらのテーマをもって見ることは難しいです。膨大な数の作品群は、時代や作風も多岐に及ぶからです。

今回の展示会は、作品数は約40とそう多くはないのですが、作品に関する説明を丁寧にしていくれているため、17世紀のオランダの世界観にどっぷりとつかることができました。とくに、展示会が「フェルメールからのラブレター」というテーマを掲げているだけあって、手紙を切り口として作品を見せるという発想が面白かったです。当時、手紙は人と人をつなぐツールとして大きな役割を担っていました。画家たちは、作品の中に手紙を登場させることによって、いろいろな思いを込めたというのです。

それにしても17世紀前半というと、日本では長谷川等伯の松林図や、俵屋宗達の風神雷神図を思い浮かべます。描かないことで何かを表現したり、独特の世界観をかたちにしたりと、いずれの作品も世界の至宝であることに疑いの余地はありません。しかし、「写実」という一点を取り上げた場合、当時のオランダの作品には素直に「すごいなあ」と感嘆の声を上げてしまいました。

では、それらの作品の中で、フェルメールはどのように卓越しているのか? それに胸を張って言える答えを、僕は持ち合わせていません。たしかに「光の魔術師」と称される、その光と影の表現の手腕には舌を巻きましたが、ほかの画家の作品も上手いといえば上手いのです(笑)

しかし、たった一つ、フェルメール作品がずば抜けていると思ったのは、「表情」です。作品「手紙を読む青衣の女」は、間近で直に見て初めて気づいたのですが、女性が実に"えも言われぬ"表情をしているのです。「この女性が手にしている手紙は、何について書かれているんだろう。きっと待ち焦がれた恋人や夫からのものに違いない」。そんな思いを抱かずにはおられません。

悦び、嬉しさ、悲しみ…。それらの言葉でこの表情を言い表す必要なんて、ないんだと思います。なぜなら、言葉にできない感情を表現する方法として、芸術はあると思うからです。そこにこそ、世界中の人たちを引きつけて止まないフェルメールの魅力があるのではないでしょうか。

作品展は10月中旬まで京都市美術館で開催されています。近くに寄られた際は、一度、足を運ばれてみてはいかがでしょう。

2011年8月16日火曜日

「値切り」 それは知的なゲーム

 海外旅行を通して得た、値段交渉のコツをまとめました。

 日本では、買い物をするときに、商品に値札が付いているのが当たり前です。スーパーやコンビニで値切っている客は見かけません。でも、南アジアや中東、アフリカなどでは、店の商品に値札がついておらず、それぞれ価格交渉する必要があります。僕が行った国では、インドとエジプトがそうでした。

 交渉の難しさは国によって違います。エジプト人よりインド人の方が、明らかにタフな交渉相手でした。紅茶を値切って買ったつもりが、しばらくして店の奥から「あの日本人、こんな高い値段で買ったよ」という声が漏れ聞こえてきたことがありました。いっぱい食わしたつもりが、実はいっぱい食わされていたのです。

 そんな「一敗地にまみれる」経験をしたかと思えば、昨年行ったエジプトでは「名誉挽回」。お土産のスカーフを2枚買ったときは、あれこれと交渉した末に、僕が思った通りの予算で買い物をすることができました。お店の人には「あなた、なかなかヤルねえ」と言われ、ちょっとエヘンと咳払いをしたい気分になりました。

 そんなこんなで僕なりに得た価格交渉のコツは、
「欲しいモノをお店の人に悟られるな」です。

 店で買いたいモノを見つけたとします。ときには「うわあ、どうしても欲しいわ」なんていう代物に出合うこともあるでしょう。それでも、心の内をお店の人に察知されてはいけません。

 最初に値段を交渉する商品は、「本命ではない」「安め」のものを選びましょう。そして値段を互いに主張した後は、できるだけ相手に歩み寄らず、「徹底抗戦」の姿勢を表します。相手に「タフな相手だ」と印象づけるのです。

 交渉が膠着したら、今度は「本当はこれが欲しかったけれど、しょうがない。違うものにするよ」と、さりげなく本命の商品に話を移します。ここで「妥協してあげる」という姿勢をアピールすることが大切です。

 もうこれだけでも、本命の商品の交渉はやりやすくなっています。なぜなら、買い手の闘争心と妥協を目の当たりにした後に、店の人が高値をふっかけてくることはないからです。店側が最初に提示してくる値段が低ければ、最後に落ち着く値段もやはり低くなるのは当然です。

 また、交渉する商品をより高いものに移すことも、店側に喜ばれます。それだけ、店側が得る利益も大きくなるのですから。同じように、購入する点数を増やすことも、交渉を有利に運ぶ材料になります。

 上で話したスカーフを買ったときは、このようにして店の人の提示した価格で買うことにしました。「ただし、もう一枚同じものを付けてね」とこちらも条件を出して。

 別れ際、店の人と握手をしながら思いました。「値段の交渉って一種のコミュニケーションじゃん。ゲームみたいに頭を使うし、なかなか楽しい」