2011年1月8日土曜日

あの焼肉を訪ねて—神奈川・大和

焼肉店「天狗家」
 学生時代にこよなく愛した焼肉店が、神奈川・大和にある。「天狗家」。卒業からかれこれ10年近く経つけれど、ふとした拍子にあの味が恋しくなり、ふらっと立ち寄ってみた。

 夕食どきを過ぎた9時半という時間帯にもかかわらず、土曜日だということもあって、店には10組ほどの客が入店を待っていた。相変わらずの人気ぶりだ。昔は、向かいのガストで順番待ちをしたことを思い出した。「飲食店に入るのを飲食店で待つ」という、今考えても奇妙な行動だった。

ライス大
 かれこれ1時間近く経って、女性店員に席まで案内される。カルビ2人前とご飯大盛りを頼む。「この店のウリは、圧倒的な肉の量。昔はカルビ2人前でお腹がはち切れそうになったものだ」というぼんやりとした記憶を頼りにしたのだ。けれど、実際に注文したものが運ばれて来ると、自分の記憶に微妙なズレがあったことに気づいた。お腹を膨らしていたのは、肉の量もさることながら、てんこ盛りの白米だったのだ。

 ともあれ、目当ての肉をさっと軽く炙り、早速口に運んだ。肉の脂と甘口のタレが口の中で化学反応を繰り返し、脳内に甘美な時が流れる。厚みのある肉は繊維がしっかりしており、噛んでも噛んでも化学反応は止まらなかった。

カルビ2人前
 一般的に「美味しい焼肉」とは、どんなものを指すのだろうか。まずひとつは、日本人に最も好まれる霜降りだろう。「口に入れた途端、さっと溶けて消える」。そんな表現がぴったりのヤツ。これは、素材の良し悪しが決定的にモノを言う。神戸、松坂、宮崎など、産地が前面に出てくることが多い。

 次に挙げられるのが、さっぱりした赤身。良いものはナイフがスッと通るほど柔らかく、後味も尾を引かない。年を重ねるごとに、こちらに好みがシフトする人も多い。

 これらが焼肉の二大カテゴリーだが、天狗の肉は、どちらにも当てはまらない。位置するのは、第三のカテゴリー「B級グルメ」だ。前のふたつのように「素材のままを楽しむ」ということはせず(できず)、その代わりに揉みダレをはじめとする調味料の力を駆使して、素材の力を何倍にも引き立てる。また値段が張らないため、好きなだけ肉を注文してお腹を満たせるのも、意外とよその店では得られない食体験かもしれない。

 そんな店の特徴は、主な客層が20代という客層にもしっかりと表れている。煙に包まれながら勢いよく肉を掻き込む彼らの姿を目にして、一瞬、10年前の自分がそこにいるかのような錯覚にとらわれた。